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東京地方裁判所 昭和29年(行)29号 判決

東京都北区赤羽町四丁目二一四九番地

原告

合資会社 弁天会館

右代表者無限責任社員

柏葉香取こと 柏葉幸之助

同区王子町四丁目一一番地

被告

王子税務署長

島田芳雄

右指定代理人検事

小林定人

法務事務官 小林忠之

大蔵事務官 若松恵吉

宝井礼治

田畑肇

石川澄一

右当事者間の昭和二十九年(行)第二九号法人税取消及損害賠償請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告会社代表者は「被告が原告に対し昭和二十四年十二月三十一日なした、原告の自昭和二十二年四月一日至同年九月三十日事業年度分法人税課税決定のうち、普通所得に対する法人税額五八一、三三五円、超過所得に対する法人税額四一五、二三九円、加算税額二八二、三六二円、追徴法人税額五四八、一一六円を各超える部分は、これを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、被告は原告会社の昭和二十二年四月一日から同年九月三十日までの分の法人税として普通所得に対する税額二、一六四、四〇〇円、超過所得に対する税額一、八四九、三五〇円、資本税五〇〇円、加算税一、〇一七、六一二円、追徴法人税二、〇〇七、一二五円、合計七、〇三八、九八七円を課する旨の決定をなしたので、原告は審査の請求をしたところ、昭和二十四年十二月三十一日、右課税金額中普通所得に対する法人税額を一、二五四、六六二円、超過所得に対する法人税額を一、〇六九、五七五円、加算税額を五八九、三二一円、追徴法人税額を一、一六二、三六一円に各変更し、資本税五〇〇円と併せて合計四、〇七六、四一九円を課する旨の決定をなし、原告は昭和二十五年四月右決定のなされたことを知つたが、右のうち請求趣旨記載の金額をこえる部分は、原告の所得を不当に高額に認定したことに基く違法な課税処分であるから、その取消を求めるため本訴請求に及んだ、と陳述し、被告主張事実中原告が法人税の申告をした事実は否認するが原告が審査の請求を取下げた事実は認める、と述べた。

被告指定代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、その理由として、原告会社の昭和二十二年四月一日から同年九月三十日までの中間事業年度につき、原告会社から昭和二十三年二月法人税の申告があつたので、被告は昭和二十四年三月所得金額六、一八四、〇〇〇円、税額七、〇三八、九八七円と更正したところ、同年四月二十三日原告会社から適法な審査の請求があつたが、原告会社は同年十月十二日右審査請求を取り下げたため、結局審査の請求はなさなかつたことに帰するが、昭和二十二年法律第二八号法人税法第三八条昭和二十五年法律第七二号附則第八項によれば、政府のなした更正及び加算税額又は追徴税額の決定に関する訴訟は、審査の決定を経た後でなければ、これをなすことができないのであるから審査の決定を経ずに提起された本件訴は不適法であつて却下を免れないものであると述べ、なお、被告は右審査請求の取下後、昭和二十四年十二月に本件決定をなしたが、これは、前記更正の処分の内容を所得金額三、五八四、七五二円、税額四、〇七六、四二九円に各訂正したものであつて、本訴はその後六箇月の出訴期間の経過後に提起されたのであるから、この点においても却下を免れない、と陳述した。

理由

原告会社の昭和二十二年四月一日から同年九月三十日に至る中間事業年度につき、被告が昭和二十四年三月法人税七、〇三八、九八七円を課税する旨の処分をなしたこと及び原告会社が同年四月二十三日右処分につき審査の請求をなしたが、同年十月十二日に至つて右審査請求を取り下げたことは、当事者間に争いがない。ところで本件につき適用されるべき昭和二十二年法律第二八号法人税法(昭和二十五年法律第七二号法人税法の一部を改正する法律による改正前のもの)第三八条第二項及び右改正法附則第八項の規定によれば同法第二九条ないし第三一条の規定により政府のなした更正又は決定及び同法所定の加算税又は追徴税の税額に関する訴訟は、審査の決定を経た後でなければなし得ないのであるから、前記課税処分が原告の主張する同法第三〇条による決定であると、被告の主張する同法第二九条による更正であるとにかかわりなく、右課税処分(原告の主張によれば、同処分中には加算税額及び追徴税額に関する決定も含まれている)に関して出訴し得るために必要な審査の決定を経ていないこと、前記争いのない事実によつて明かな本件においては、本件訴の提起は不適法である。

また、被告が昭和二十四年十二月前記課税処分を訂正し、税額の合計を四、〇七六、四一九円とする決定をなしたことも亦当事者間に争いのない事実である。(但し、被告主張額は右の金額よりも一〇円多い)が、前記審査請求の取下が、適法になされなかつた為めに右の決定がなされたとすれば、右の決定は、まさに前記法人税法第三七条第三八条に謂う審査の決定に該るものである。然るに、本件訴の提起が昭和二十九年四月十九日になされたことは当裁判所に顕著な事実であるところ、原告が右の決定のなされたことを知つたのが昭和二十五年四月中であることは原告の自認するところであるから、本件訴の提起は行政事件訴訟特例法第五条第一項所定の六箇月の出訴期間を経過した後になされた不適法なものであることが明らかである。

従つて右いずれの理由によつても本件訴の提起は不適法であるから、これを却下すべく、訴訟費用は民事訴訟法第八九条により、敗訴当事者である原告に負担させることとする。よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 近藤完爾 判事 入山実 判事補 大和勇美)

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